【ほっこり泣けるお仕事小説】コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店―/町田そのこ

ページの隙間から失礼します。てるまれです。

今回は、本屋大賞受賞作家である町田そのこ先生『コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店―』をご紹介します。

目次

はじめに

『コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店―』はどんな人にオススメ?

  • 感動できる小説が読みたい人
  • コンビニ好きの人や地元愛が強い人
  • 一風変わった日常を体験してみたい人

今や当たり前のように、どこにでもある「コンビニエンスストア」

都会は当然の如くさまざまなコンビニが街中に立っていますし、車で数十分かかるとはいえ、田舎だってコンビニはあります。

本作『コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店―』は、架空のコンビニチェーン店「テンダネス」と、福岡県にある「テンダネス門司港こがね村店」を舞台にした連作短編集。

コンビニという空間を通じ、心温まる物語の数々に、読者はきっと心和ませられるはずです。

読みやすくもじんわりとした温かい読後感を残してくれる本作の魅力を、少しでも伝えられたらと思います!

小説評価グラフ

てるまれ

下記グラフは、あくまで私個人の評価となります!

あらすじ

あなたの心、温めます。九州だけに展開するコンビニチェーン「テンダネス」。その名物店「門司港こがね村店」で働くパート店員の日々の楽しみは、勤勉なのに老若男女を意図せず籠絡してしまう魔性のフェロモン店長・志波三彦を観察すること。なぜなら今日もまた、彼の元には超個性的な常連客(兄含む)たちと、悩みを抱えた人がやってくるのだから……。コンビニを舞台に繰り広げられる心温まるお仕事小説。

町田そのこ『コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店―』 新潮社

解説レビュー

読者の目に魅力的に映るコンビニ「テンダネス」

”ひとにやさしい、あなたにやさしい”をモットーとするコンビニチェーン店「テンダネス」。

九州で勢いを伸ばし続けているコンビニです。

物語の舞台はテンダネスの「門司港こがね村店」。高齢者専用マンション「こがね村」の1階に入っているコンビニです。

魅力的な登場人物が集うこの場所で、悩みを抱えていた従業員やお客さんは、解決のきっかけを掴んでいくことになるのです。

てるまれ

自分のよく利用するコンビニを想像しながら読み進めると、より楽しめるかもしれませんね。

ファンクラブができるほどのモテ男店長・志波三彦

もっとも印象的な登場人物といえば、やはりテンダネス門司港こがね村店の店長・志波三彦(しば みつひこ)でしょう。

湯水の如くフェロモンを垂れ流す志波は、とにかく無自覚に人を魅了してしまう特異体質です。

高齢者専用マンション「こがね村」の婦人会も、実質的に彼のファンクラブになってしまっているほど。

しかし、モテるのも当然と思ってしまうほど”できた”人間である志波。それを表している文章がこちら。

「あの言葉でいまのぼくがあるんだよ。コンビニがあって、よかった」
 静かに、自分を語るように志波が言う。その顔にはいつもの胡散臭さも色香もなかった。うつくしい薔薇の奥に潜む一滴の露のような儚さで、これこそが彼の本質なのだろうと光莉は思った。彼を思うひとたちは皆、この露を求めているのかもしれない。

町田そのこ『コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店―』 新潮社

モテ男といえば物語に試練を与える嫌味なキャラクター像を想像してしまいますが、この通り、志波の本質は魅力を放つ体質ではなく、深みと品位を兼ね備えた奥ゆかしさにあるのでしょう。

周囲に異常なほど気配りができる彼の存在によって、登場人物たちは救われていくのです。

「テンダネス門司港こがね村店」を訪れる個性豊かなお客さん

志波を目的にテンダネス門司港こがね村点に訪れる人は数知れません。

しかし、彼に興味のある人だけでなく、さまざまの人が利用するテンダネス。物語は悩みを持つ人々にスポットライトが当てられ、進行していきます。

塾で働いている漫画家志望の男性、幼馴染のいじめを傍観してしまう少女、妻とそりが合わなくなってしまったおじいさん。

日常に悶々とした悩みを抱えている彼らは、訪れたテンダネスで出会った人物やかけられた声をきっかけに、鬱屈とした生活を変える一歩を踏み出していきます。

大好きだった話は、第五話の『愛と恋のアドベントカレンダークッキー』です。

テンダネスでバイトをしている主婦・中尾光莉。この話は、彼女の息子である中尾恒星の視点で描かれる恋の物語。

女子にそれなりにモテる恒星ですが、愛や恋というものをどこか冷めた目で見ており、自分が誰かを好きになることはずっと先のことだと、漠然とした感情を抱いています。

恒星が愛に不信感を持つのは、母である光莉に不倫の疑惑があるからです。

ある日、インフルエンザで学級閉鎖となり、いつもより早く帰路についた恒星は、光莉が仲睦まじそうに男性とホテルに入っていくのを目撃してしまいます。

呆然と立ち尽くす恒星の手を引いたのは、クラスメイトである三隅美冬

彼女はこの冬、テンダネスでバイトを始め、恒星の母親である光莉と親しくなっていた女子生徒でした。

あなたの母親はそんな不倫なんかする人じゃない。三隅はそう恒星に言い聞かせ、2人は共に尾行を始めます。

この小さな冒険は、恒星にほんのりとした恋心を芽生えさせました。

しかし、三隅にはすでに好きな男子が——それも、恒星の親友・小関大祐のことを好いています。ですが、恒星の密かな憧れでもある小関は、なぜか恋人を作る気がさらさらないようです。

ある日、事態は急展開を迎えます。

三隅が小関に告白し、こっぴどく振られたのを見たという生徒がいたのです。

居ても立っても居られなくなった恒星は、学校を早退し、現在三隅がおばあちゃんと同棲しているマンション——こがね村に向かいます。

この先の展開は、ぜひ本編で楽しんでほしいです。

てるまれ

恒星、三隅、小関の三角関係はまさに青春と呼べるもので、読んでいて胸が高鳴ってしまいました!

謎の人物・ツギ

テンダネス門司港こがね村店に訪れる謎の人物・ツギ

彼も本作を語る上ではなくてはならない登場人物です。

廃品回収と便利屋を兼ねた「なんでも屋」として働くツギは、同じ男性でも志波とは似ても似つかないワイルドな髭モジャ男。

志波を含めた登場人物の依頼を受け、人探しなどを請け負ったりもする、一見変わったコンビニのお客さんの彼ですが、実はとある大きな秘密を抱えています。

てるまれ

彼の秘密は序盤の第一話で明かされるため、まずは気軽に読み進めてみてください!

グッときた場面や表現

コンビニの利便性と安心感を読者に伝える物語

架空のコンビニを舞台に人々の交流を描きながら、悩みを解きほぐしていく本作。

グッときたポイントは、「身近にコンビニがある安心感を伝える描写」です。

 慣れない土地に行くたびに思うけれど、コンビニって不思議な場所だ。どこの街であろうと、この中に入るだけでどこか親しみのわく懐かしい空間に変わる。同じような店内で、同じような商品が並んでいるからだろうけど、安心感のようなものを覚えてしまう。

町田そのこ『コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店―』 新潮社

 ここに来ればひとがいる。助けになるものがある。あの一言で、どれだけ安心できただろう。

町田そのこ『コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店―』 新潮社

「コンビニ店員だって個性があっていいんだよ。そしてぼくはね、ふらっと立ち寄るだけの場所だからこそ、最高に居心地のいい空間にしたいんだ」

町田そのこ『コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店―』 新潮社

どうでしょう? 私たちがいつも利用しているコンビニが、「もうひとつの家」のように見えてはきませんか?

コンビニといえば、商品の価格が高騰していることや、お弁当の上底問題、健康に悪い食べ物など、近頃マイナスな話題が尽きません。

ですが、一体どれだけの人がコンビニに助けられて生きているのでしょう。

コンビニという存在が当たり前になったから現代だからこそ、そのありがたみに気づく必要があるのかもしれません。

てるまれ

健康に悪いかもと思っても、ついつい揚げ物とかを買っちゃいますよね(汗)

心をホッとさせてくれる、温かな食事の描写

食事の描写が多かったのも、気になったポイントのひとつです。

心と身体を充填させてくれる食事の描写の数々には、瀬尾まいこ先生の『そして、バトンは渡された』原田ひか先生の『ランチ酒』シリーズなどに通じるものを感じ取りました。

食べ物は人間の心を潤してくれる、もっとも身近な存在です。

コンビニで購入できる食べ物も、近年の凄まじいクオリティアップによって、こんな美味しいものが手軽に食べられるなんて! と思ってしまうようなものばかり。

もちろん自炊もいいですが、手軽さって、やっぱり正義なんですよね。

ふらっと立ち寄って、心も身体も満足させてくれる。そんな場所がコンビニなんです。

てるまれ

各短編のタイトルにも食べ物・飲み物の名前がついているように、作者の町田そのこ先生も、意識して書かれているのかなと思いました。

おわりに

さて、いかがでしたでしょうか?

本作を読んだ方は、ふらっとコンビニに立ち寄りたくなるのではないかな? と思います。

私も読了後、自然とコンビニに足が向かい、何点かスイーツを食べてしまいました……ダイエット中なのに。

続編も次々と刊行されている本作。いつか次回作も読んでレビューするので、楽しみにしていただければ幸いです。

それでは今回はこの辺りでお暇といたします。

ご一読いただき、ありがとうございました。

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