【滅法おかしな奇天烈青春物語】四畳半神話体系/森見登美彦

ページの隙間から失礼します。てるまれです。

今回は、2010年にアニメ化もされている森見登美彦先生の『四畳半神話大系』をご紹介します。

目次

はじめに

『四畳半神話体系』はどんな人にオススメ?

  • 愉快痛快な物語が読みたい人
  • 森見登美彦先生の作品を初めて読む人
  • 『夜は短し歩けよ乙女』を読んだことがある人

みなさんは森見登美彦という作家をご存知でしょうか?

京都を舞台にした作品を多く世に放ち、その独特の文体とばかばかしさの中に愛おしさを内包する不思議な物語から、カルト的な人気を誇る作家さんです。

特に『夜は短し歩けよ乙女』という作品が有名で、そちらは文庫版の累計発行部数が130万部を超えています。凄すぎる……。

本作『四畳半神話大系』も、森見登美彦先生の作品の中ではかなり有名な一冊。

2010年にはノイタミナによってアニメ化もされていますし、森見登美彦先生の魅力がこれでもかというくらい、みっちりと詰め込まれています。

『夜は短し歩けよ少女』から森見登美彦先生にハマる人が多いかと思いますが、私としては本作から入るのも全然アリだと思っています!

むしろ『四畳半神話大系』や『夜は短し歩けよ少女』を含めた森見登美彦先生のいくつかの作品は、それぞれの作中に登場するキャラクターを共有している世界観のため、どれから読んでも楽しめるはずです!

今回も読書レビューを通じて、森見登美彦ワールドの魅力を少しでも伝えられたらと思います。

小説評価グラフ

てるまれ

下記グラフは、あくまで私個人の評価となります!

あらすじ

私は冴えない大学3回生。バラ色のキャンパスライフを想像していたのに、現実はほど遠い。悪友の小津には振り回され、謎の自由人・樋口師匠には無理な要求をされ、孤高の乙女・明石さんとは、なかなかお近づきになれない。いっそのこと、ぴかぴかの1回生に戻って大学生活をやり直したい! さ迷い込んだ4つの並行世界で繰り広げられる、滅法おかしくて、ちょっぴりほろ苦い青春ストーリー。

森見登美彦『四畳半神話大系』 KADOKAWA

解説レビュー

何度読んでも味がする、面白すぎる書き出し

いきなり引用かよ! と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、まず初めに、本作の書き出しを見ていただきたいです。

 大学三回生の春までの二年間、実益のあることなど何一つしていないことを断言しておこう。異性との健全な交際、学問への精進、肉体の鍛錬など、社会的有為の人材となるための布石の数々をことごとくはずし、異性からの孤立、学問の放棄、肉体の衰弱化などの打たんでも良い布石を狙い澄まして打ちまくってきたのは、なにゆえであるか。
 責任者に問いただす必要がある。責任者はどこか。

森見登美彦『四畳半神話大系』 KADOKAWA

ざっくり解説すると、これは主人公の「私」が大学生活の2年間を猛省している描写です。

注目して見てほしいのは、独特の雰囲気を纏っている文体の部分。

古めかしさも感じさせながら、とてもユーモラスでうっとりするような文章。

まるで、言葉が踊っているような感じがしませんか?

森見登美彦先生は作品の面白さもさることながら、この「森見登美彦にしか書けない文章」があまりにも魅力的すぎる作家さんなのです。

そして何よりも凄いのが、この気合いの入った書き出しの雰囲気が、作中を通してずっと続いていくこと。

文字通り、「ずっと」です。

だからこそ、読んでいてまったく中弛みがなく、常に最高に面白い状態が続いていきます。

てるまれ

比べるのもおこがましいですが、同じく文章を書く者としては嫉妬せずにはいられない文才です(笑)

4つの「私」の選択

「あの選択を間違えていなければ……」。なんて思った経験、きっとありますよね?

大学入学時、サークル勧誘などの目的から多数のビラを押し付けられていた主人公の「私」は、ある4枚のビラに惹かれました。

・映画サークル「みそぎ」勧誘のビラ。

・「弟子求ム」と書かれた奇想天外なビラ。

・ソフトボールサークル「ほんわか」勧誘のビラ。

・秘密期間〈福猫飯店〉勧誘のビラ。

本作『四畳半神話大系』は、大学3回生の「私」が大学入学時にした4つの選択によって分岐した、それぞれの世界を描く短編集です。

第一話『四畳半恋ノ邪魔者』では、映画サークル「みそぎ」に入った場合の物語。

第二話『四畳半自虐的代理代理戦争』では、不思議な自由人・樋口に弟子入りした場合の物語。

第三話『四畳半の甘い生活』では、ソフトボールサークル「ほんわか」に入った場合の物語。

最終話『八十日間四畳半一周』では、秘密組織「福猫飯店」に入った場合の物語。

しかし、本作の主人公であり語り部の「私」は、プライドと理想だけ無駄に高く、非活動的で社交性の低い冴えない大学生。

どのルートでも「薔薇色のキャンバスライフ」を妨害するさまざまな事件が発生するため、結局彼は不毛で無意味な大学生活を送る破目になっていくのです。

これでもかというくらい散々な目に遭っていく「私」の姿に、読者たちはつい笑いをこぼしてしまうことでしょう。

魅力的すぎる登場人物たち

「私」の選択とともに本作を彩るのは、魅力的すぎる登場人物たちです。

最も読者に印象を残したのは、「私」を引っ掻き回す悪友・小津(おず)の存在でしょう。

他人の不幸をおかずに飯が3杯食えると例えられるほど、悪行が大好きな小津。

どの選択をしたルートでも小津に目をつけられてしまう「私」は、ありとあらゆる手段で彼によって妨害され、その立場をどんどん悪くしていきます。

コメディタッチで描かれた小津の悪行の数々は、2人の漫才を見ているかのよう。

日々悪態を吐いている「私」も、小津を唯一の友人と思っているところがあり、歪んだ友情はどこか微笑ましさを感じさせます。

理知的な黒髪の美少女・明石(あかし)さんも魅力的な人物です。

「私」や小津と交流のある1年下の後輩である明石さんは、小津と同じくどのルートでも「私」と関わりを持つことになります。

クールな明石さんは、彼らのばかばかしい行動に冷めた視線を送りつつも、どこか楽しんでいる節があります。

蛾を前にすると「ぎょええええ」と漫画のような悲鳴を上げて取り乱したり、クマのぬいぐるみに名前を付けて持ち歩いているなど、年相応の女の子らしい一面も。

彼女と「私」の関係も、本作の大きな魅力のひとつと呼べるでしょう。

他にも、小津が「師匠」と呼び慕う自由人・樋口清太郎や、驚くほど酒癖の悪い美女・羽貫涼子など、奇想天外な登場人物がまるで福袋と言わんばかりに登場します。

てるまれ

「私」と彼らの関係がルートによってどんな変化を見せていくのか、この辺りに注目してみると、本作をより楽しめるかもしれません。

グッときた場面や表現

ばかばかしさの中にある、確かな愛おしさ

やはり本作の面白さは、奇想天外な物語と「私」という主人公に集約されるでしょう。

読み進めていくうちに、側から見ていても面倒臭い拗らせ男子である「私」に、読者はどんどん惹かれていきます。

思わず苦笑いしてしまった、「私」の自信に対する評価の一文がこちらです。

 私とて誕生以来こんな有様だったわけではない。
 生後間もない頃の私は純粋無垢の権化であり、光源氏の赤子時代もかくやと思われる愛らしさ、邪念のかけらもないその笑顔は郷里の山野を愛の光で満たしたと言われる。

森見登美彦『四畳半神話大系』 KADOKAWA

呆れてため息が出てしまうほど、意味不明な自信というかなんというか……。

どれだけ傲慢な人物でも、なかなかこんな台詞は出てきませんよね(笑)。

ですが、こんなにも高いプライドや自意識を嫌味ったらしくなく、むしろ面白おかしく描写できる森見登美彦先生はやっぱり凄い!

また、「私」が過ごす愛おしい日常を読者に伝えてくれる、作中で小津の放った大好きな台詞がありまして、それもご紹介したいと思います。

 私は溜息をついた。
「おまえがそんな生き方をしているから、俺もこんなふうになっちまったんだ」
「無意味で楽しい毎日じゃないですか。何が不満なんです?」

森見登美彦『四畳半神話大系』 KADOKAWA

同じ後悔を味わい、同じ屈辱を味わい、同じ幸せを噛み締める。

くだらなさ、ばかばかしさの中にある確かな愛おしさを全身に浴びることができるような、本当にいい台詞です。

てるまれ

小津の台詞には妙に芯を食っているものがあって、たまにほろりとさせられます……。

鮮やかに始まり締めくくられる4つの物語

それぞれの話で、たびたび同じ言い回しが使われている点にも注目したいポイント。

たとえば、小津や明石さん、樋口などの登場人物についての「私」の見解や、イベントめいた出来事に対する「私」の小さな選択などは、どのルートでも一貫して同じなのです。

特に、冒頭文と話の締めくくりの部分に同じ言葉が使われているのは、この事実を如実に表していて、とても秀逸な仕掛けだと思いました。

路上の占い師の言う通り、どれだけ愚かな選択をしても「私」はささやかな幸せを手に納める運命にあったのでしょう。

最終話だけ作中の文章や締め括りが違っているのもグッときます。

なぜ違うのかは読んでみてのお楽しみ……。

てるまれ

こういった鮮やかな仕掛けの数々に、何度でも読み返したくなる魅力がぎゅっと詰まっているのかなと、私は考えます。

おわりに

さて、今回は私の大好きな作家さん・森見登美彦先生の『四畳半神話大系』をご紹介しました。

この記事を読んで手に取ってみようと思った読者さんには、本作を読み終わったあとの心地よい脱力感に酔いしれてほしいです。

また、文庫版を読んだ方はぜひ、佐藤哲也さんの巻末解説にも目を通していただきたい。

本作の魅力を素晴らしい解像度で言語化されている、名解説だと思います。

それでは今回はこの辺りでお暇といたします。

ご一読いただき、ありがとうございました。

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